英数学院だより(2023.2月号)

大人になった「ビリギャル」が悟った受験する意味

私は得意なものとか人より詳(くわ)しいものとか、何もなかった。ワクワクするものも「イケメン」とか「なんとなくキラキラした世界」とかそんなんばっかり。でも、それでいいんだ!そんなんでいいから、とにかくワクワクできるものに挑戦するってこと、してもいいんだ!ときっかけをくれたのが坪田(つぼた)先生だった。

私からひとつだけ助言するとするなら、ワクワクするものがなにもない人、得意なものがなにもない人は、受験を頑張るのはひとつ、アリだと思う。私は、受験ってめちゃくちゃ便利なシステムだと思っている。受験は究極、努力しまくった人の勝ちだ。

この、受験や試験に頼らない生き方ってどんなか。例えばイチローさんみたいにスポーツの世界に生きる人。絵や音楽でお金を稼ぐ人。車とか、アニメとか、なにかのスペシャリストになってその分野で生きていく人。早くから起業して、自分で商品やサービスを生み出してお金を稼いで生きていく人。いろんな人がいるけど、試験に頼らない生き方は、「死ぬほどの努力」以外にも、他の要素が必要になることが多い。例えば運とかセンス。試験に受かるよりも何倍も厳しい世界だ。

でも、私みたいにそういうものがなにもない人は、「いい大学に頑張って入る」という選択肢は、自分の世界を大きく広げてくれる、確実で手っ取り早い方法のひとつだと思う。頑張って勉強してなかなか入れない大学に入るとなにがいいか。出会いと経験値が桁(けた)違いに増える。頑張らないで生きていた人生よりはるかに、刺激をくれる出会いにたくさん恵まれて、そこからどんどんまた世界が広がる。出会う人や経験の質が変わるんだ。

皮肉なことに、多くの人は勉強する意味を、大人になってはじめて体感する。「やべーもっと勉強しとけばよかった」と、だいたいの大人が思うことになる。年齢を重ねると、背が高くなるだけでなく、「視座」が高くなる。見える景色も広くなるし、視点も多くなる。そうすると、学校で勉強していたことの多くが、私たちのリアルな生活とつながっていることを、やっと理解する。

「数学って絶対意味ないと思ってたけど、数学できる人ってこういう分野で活躍できるのかよ……」とか、「日本史とか世界史って、ただの暗記だと思ってたけど、いまこの瞬間起きているニュースを理解するには歴史知らないと無理なんじゃん……」とか、えーそれは早く知りたかったよ、ということばっかりだ。

こうやって、もう何世代も「あーあ、もっと勉強しとけばよかったな」と、大人になって後悔する人が続出している(かく言う私も、そのうちの一人だ)。例えば、大人だって「こんな意味ねえ会議に何時間使うんだよふざけんなよ」と思うことがある。そう思いながら出席する会議で、いいパフォーマンスなど発揮できるはずがない。我々人間は元来、「意味がないと信じるもの」を頑張れるようになど、つくられてはいないのである。

「サインコサイン?織田信長?それらは私の人生に関係あるんですか?これ覚えて、なにになるんですか?」と半ばキレ気味で思ったことが一度でもある人は、素直に認めてほしい。勉強しなさい!といま子どもを追いかけ回している大人だって、元々はおんなじところにいたんだ。しかし、親が意地悪で言っているわけではないのは、おそらく子どもらも理解している。親は子どもが大好きで、幸せになってほしくて言っている。なかには、「自分のように後悔してほしくない……!」という強い思いに駆られて、必死で子どもを追いかけ回して言っている人もいるだろう。しかし、その思いは残念ながら伝わっていない。これを傍(はた)から見ていて、この愛のメッセージの一方通行は、どうやったら解消されるだろうか、とずっと思ってきた。

私は勉強って「自分のため」にするものじゃないと思っている。だって、自分ひとり生きていくだけなら、よくわかんない数式や化学式や、昔の法律がどうだったかとか死んだ侍がどう戦ったかとか、そんな知識別にいらない。そんなの知らなくたって、生きている人はたくさんいる。でも、もし、私にいつか子どもが生まれたとして、その赤ちゃんは、何もできない状態で生まれてくる。うんちもふけない。ごはんも自分で食べられない。服も着られないし歩けない。周りの大人が全部、やってあげないと生きられない。つまり私に、経済力や知識、生きる力がないと、この子を守ることも、生かすこともできない。

そして、親というのは、我が子を、自分の命にかえてでも守りたいと思ったりするもんなんじゃないかなぁ、と想像している。自分にいつか、子どもに限らず、命にかえてでも守りたいものができたときに、その存在をしっかり守る力の土台になるのが、「生きた知識」で、それを得るためにするのが、「勉強」なんじゃないか、と思う。(「ビリギャルが、またビリギャルになった日」より一部抜粋)

※1月9日(月)は成人の日ですが、通常通り授業があります。

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